Blues' notes

ロンドンの青いフットボールクラブ、チェルシーの試合やニュースについて思うままに書いてます

チェルシーの補強に対する違和感 ー 物語性の欠如

チェルシージョアン・フェリックス獲得で合意した模様です。アーセナル他多数のクラブが買取OP、給料負担、ローン費用などの契約条件で合意に至らない中、強奪のような形になりました。

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この動きを踏まえ、最近僕が感じているボーリー政権チェルシーの補強に対する違和感を書き起こしたいなと思います。

 

結論、それは「選手、クラブ両目線での物語性の欠如」です。

 

ファンは選手に対して物語(ストーリー)性を求めています。例えば、19/20のPL最終節、ウルブズ戦でマウントが直接FKを決め、CL権獲得に導きました。この時、少年時代のマウントがロナウドを真似てFKを蹴る動画が拡散され、「全く同じ軌道のシュートを愛するクラブの重要な局面で決めた」というストーリーと相まってファンは試合の余韻を楽しんだはずです。

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僕はコバチッチが妥当と思っていたクラブのシーズンの最優秀選手にも、このゴールがきっかけでマウントが選ばれ、翌年の大ブレークに繋がります。

 

希代のスター選手には皆、語られ続ける物語があり、メッシのW杯優勝は最も美しいシナリオだったからこそ感動がありました。

 

 

一方、クラブ目線での物語とは、悲願のタイトル獲得、ドン底にいたチームの成長、欠けていた最後のピースを埋める補強、レジェンドから若手へのバトンタッチなど、エモーショナルな出来事によって紡がれます。

 

例えば、リバプールは17/18のCL決勝、サラーの負傷交代とGKのミスが絡んで敗北しました。しかし、CLで対戦したローマのGKアリソン、当時PL最高のCBと言われたファンダイクを獲得して「最後のピース」を埋めると、バルサへの歴史的逆転勝利を経て再び辿り着いた決勝では前年に涙を流したサラーがゴールを決めて優勝を果たしました。

 

チェルシーでは、20年夏の補強は物語性がありましたね。まず、CL決勝で敗れたチアゴシウバがランパードとの電話によって加入を決めるというエピソードがあり、ずっと狙っていたチルウェル、ヴェルナーを獲得。メンディも望まれていた長身のGKで、選手にもフランスの下部リーグから這い上がったというカンテと重なる物語がありました。

 

そしてなにより、噂が出つつも中々決まらないハヴァーツに対してサポーターがSNSでクラブや選手に大量のリプライを送り続け、獲得発表の映像でそれをクラブ側がネタにするという流れ。19年夏の補強禁止処分を乗り越えた待望のビッグサマーということも重なって、サポーターは最初から選手への期待と愛着が高かったと思います。

 

21年夏の補強も失敗でしたが、ストーリー性はありました。CL優勝を果たしたチームの「最後のピース」として加入したルカクは、ドログバのお墨付きと、「チェルシーでやり残したことがあるから帰ってきた」という背景、失敗続きの「背番号9」復活への期待など、最初はチームへ期待感をもたらしてくれたと思います。

 

以上で例に挙げた選手、クラブ両目線での物語性ある補強と比較して、今のチェルシーはどうでしょうか。オーナー、監督、補強担当の誰が望んでいるのかはっきりせず、補強ポジションなのかすら怪しい選手の獲得が噂もなく突然決まり、背番号の割り振りは適当で、前体制で力を入れていた獲得発表のムービーもなくなりました。ライバルクラブ出身選手の獲得に対する慎重さも皆無です。

 

選手目線でも、オーバメヤンアーセナル時代の自分を右腕に彫っており、FA杯決勝でチェルシーを沈めた存在です。彼の加入後に撮られた映像では、アーセナルサポーターへの罪悪感とも取れる微妙な表情が見られました。お互いにとって、実利だけを求めた移籍で、物語としては美しくないです。

 

これではサポーターは、新加入選手へ愛着も期待も持てません。スターリング、オーバメヤンについては未だに自分の応援するクラブの選手であることを実感できず、傭兵に無駄なお金を払って「スカッドのネームバリュー」を買っているように思えます。

 

本題のフェリックスについて、僕は計画性の見えない補強だなという印象です。タイプ的にはハヴァーツ、マウントと似ていますし、半年ローンにしては年俸負担、ローン費用が高過ぎます。本当にポッターの望む補強なのか?という疑問もあります。

 

結局、シメオネアトレティコに合うわけない選手だと思っていた第一印象から変わらず、攻撃の戦術がないチームで苦しんだ印象なフェリックス。チェルシーが、フェリックスが活躍できるようなチームならマウントやハヴァーツが活躍できているはずです。

 

また、フェリックスの価格は実力以上にスター性による上乗せがあると思います。それは何の物語性もないチェルシーへの移籍で発揮されるものではなく、ぐちゃぐちゃのパズルの小さなピースとして苦しむフェリックスは見たくありません。彼はアンチェロッティに望まれてエバートンに行った時のハメスのような移籍が似合います。王様として輝いてほしいです。

 

エンソ、ムドリクの噂と合わせて、他クラブも望む有力株に片っ端から入札しようとしているようで、どれも計画的な補強とは思えません。怪我人多発による一時的な人員補充だとしても、欲しいのはそこじゃありません。ハヴァーツ、マウント、ギャラガーがシャドーで起用できますが、彼らはほとんど怪我しないので、彼らの代役を探すよりも、彼らが生きる戦術をやるために必要な他のポジションを狙うべきではないでしょうか。

 

 

 

ユース育成の戦略についても、僕は懐疑的です。ユースの下の年代からチェルシー一筋だった選手(マウント、ジェームズ、エイブラハム、トモリ、チャロバー)が、チームの主力になったり移籍金を残してくれたりと成功している裏で、アンパドゥ、ギルモアら、16〜18歳頃になって獲得した選手は今のところ上記のメンバーとは差が開いています。

 

この反省を生かさず、ハッチンソン、カサデイ、チュクウェメカら若手を、そこそこ高額な移籍金で青田買いしまくっているという方針が僕は解せないです。マドリーのヴィニシウスのように、ちゃんと長年に渡って品定めをし、獲得後も上向きの成長曲線を辿る青田買いなら理解しますが、チェルシーは数打てば当たる、転売すれば良い、という思惑が透けて見えるので印象が悪いです。

 

チェルシーのユース戦略の目指すべき方針はSRを探し当てるために青田買いガチャを引くことではなく、ユースで下の年代から育ってきたSRになりうる原石たちをクラブに残し、定着させることではないでしょうか。グエイ、ランプティ、リブラメントらチェルシー一筋の選手は他クラブで活躍しています。サポーターとしても、チェルシー一筋の選手の方が愛着が湧きますし、18歳になってやってくる選手よりも、幼少期から青い血が流れている選手を大切に扱ってほしいです。

 

以上、ふわふわと思っていたことを言語化しました。ユース戦略のところについては青田買いすべきという意見もわかりますので、批判も歓迎です。ただ、クラブを仕切るビジネスマン達には、サポーターの「感情」でフットボールビジネスが回っているということを忘れないでいただきたいと思います。